心ゆくまで崖っぷちで読む本

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【読書033】虐殺器官

虐殺器官」(伊藤 計劃/ハヤカワ文庫JA)

9・11、アメリカ同時多発テロ事件以降の世界を描いた近未来SF。

徹底的な管理体制によりテロを一掃した先進諸国に対して後進諸国では内戦、大規模虐殺が急増していた。

一見平和への道を歩んでいた国が、指導者が、突如変貌を遂げ、あっという間に虐殺に至る。

その渦中に必ず存在するキーパーソン、ポール・ジョン。

主人公のクラヴィス・シェパードはアメリカ情報軍、いわゆる暗殺部隊という立場から、ポール・ジョンを追い、やがてポールと対面する。

お話の基本ベース自体は罪と罰かな。テクノロジーの狭間に生じる倫理問題。解離症状。

タイトル、上記概要からもわかるとおり、グロ表現、暴力的、残虐な記述がある。むしろそこから始まるし、物語の核となる部分でもあるので、苦手な方は注意。

紛争地域での作戦部分と米国本国での帰還後、出陣前の様子が交互に語られる。

光学迷彩や、情報表示のディスプレイとなるコンタクトレンズ、人工筋肉の生体マシンなど、近未来SFとして非常にツボを押さえた科学技術の数々が盛り込まれているが、作戦部分ではハイテクとローテクが入り交じる感じが面白い。

装備はハイテクであっても、ジャングルを行進する際は、道なき道を横軸移動するなど作戦の基本はローテク時代から変わらない感じ。

ただ、物語の核となるものの根拠が薄い感じで、こじつけ感がある。この部分をもう少し厚く書いてほしかった。

中ダレはあるものの、スケールが大きく、感性として面白い言葉もいくつかあった。

地獄はここにあります。頭のなか、脳みそのなかに。大脳皮質の襞のパターンに。目の前の風景は地獄なんかじゃない。逃れられますからね。目を閉じればそれだけで消えるし、ぼくらはアメリカに帰って普通の生活に戻る。だけど、地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭のなかにあるんですから。」(52ページ)

仕事だから。十九世紀の夜明けからこのかた、仕事だから仕方がないという言葉が虫も殺さぬ凡庸な人間たちから、どれだけの残虐性を引き出すことに成功したか、きみは知っているのかね。(中略)つまり、仕事とは宗教なのだよ。信仰の度合いにおいて、そこに明確な違いはない。そのことにみんな薄々気がついているようだがね。誰もそれを直視したくはない。」(310ページ)

とかね。

ただ「愛する人々を守るため」に紛争を生じさせるポールのシンプルさが良い。けれど、それは知的で冷静なだけでやはり狂気なんだと思う。

カウンセリングと薬物によって罪悪感は無自覚化され殺人は肯定される。それでも誰かに罰せられたいと望む。

一見正常な反応のようだけど、その辺の主人公の軟弱さなのかなぁ。仕事という宗教によって、責任を転嫁させ己の感情を鈍化させあげく罰してくれ、と。

なんだかとりとめのない書評になってしまった。

おすすめはおすすめだけど、読むのに根気がいるのと、グロ表現とで友人には勧められないなぁと言う感じです。