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【読書143】旅と病の三千年史―旅行医学から見た世界地図

旅と病の三千年史―旅行医学から見た世界地図」(浜田篤郎/文春新書)

ざっくりメモ書き的に感想を。

古い時代、旅が今よりもずっと過酷で、病は悪い精によって生じるといった考え方が一般的だった時代の古典的な医学から、微生物が発見され、病気の原因は全て微生物という風潮があった時代、戦争医学の中の熱帯医学を経て現代の旅行医学へ。

「旅行医学」をキーワードに旅、すなわち人の移動と病気の伝播、流行について取りあげた一冊。

古来、異国への旅、即ち完全に環境の異なる地域への移動は、リスクあるものであった。

長距離の移動に伴う疲労や栄養状態の悪化はもちろん、不衛生な水、故郷には存在しない病原体への感染と発病。

命をかけた長い旅路の果ての帰還という偉業を成し遂げた玄奘ら過去の偉人は長寿を全うする。

長寿の理由は非常に過酷だった長旅を経たためか、あるいは長旅に耐えうる強靭な身体を持っていたがゆえか。

過去も昔も人の移動に伴い、病気も拡散し、大規模な流行が起こる。

古来人の大規模な移動のメインは、シルクロード等を用いた交易と戦争だ。

戦争による戦死者が従軍による病死者を上回るようになったのは日露戦争以降らしい。

古来の戦争では戦死者よりも疫病の蔓延による病死者の多発、軍内の士気の低下で、戦わずして軍が解体し撤退を余儀なくされた例がいくつもある。

日本国内に絞っても、実践的な英国医学をベースとする海軍と、原因究明を主とした理論医学的なドイツ医学をベースにした陸軍。同じ日本国軍でも、派閥が割れ、脚気による死者数に大きな差が生じた。

ビタミンCの欠乏によって発症する壊血病でも、当初は予防薬として効果のない麦汁が推奨され、長期航海における壊血病の根絶に手間取った歴史もある。

その後両者の良いとこどりをするような方向に進んだとはいえ、どちらの立場も間違いではない。

原因が分からなければ対策が取れないが、実際病に苦しんでいるものがいるのであれば効果があるらしい治療を施してみる。

医学という立場で言えば、死者が少なくなる方法、病気が改善する方法が正しい気がする。

旅行医学については、

当初は海外旅行者の健康問題を扱う医学だったが、それをさらに拡大し「国際間の人の移動にともなう健康問題や病気を究明し予防する医学」として規定されるようになった。(125ページ)

とある。

新型インフルエンザやSARSの問題の際によく言われることだが、人の移動が盛んになればなるほど、国際規模の流行が生じる危険性は増し、検疫や予防接種の重要性は増す。

最近だと鳥インフルエンザが人人感染するように変異したのではないかというニュースが流れるなど、人類が新規の病害にさらされるのは、歴史的に見ても現実的にもよくある話なのだと思う。

ただ過去を振り返ると、大規模な流行が生じても案外、抵抗性を獲得した人類が生き延びていくのかもしれない。