【読書188】こちらあみ子
「こちらあみ子」(今村夏子/筑摩書房)
果たしてどう読むのが正解なんだろうか。
本書には表題作の「こちらあみ子」と「ピクニック」の二作が収録されている。
主人公あみ子が初恋ののり君に殴られて、歯を失うまでが、彼女の視点で書かれている。
発達障害、高機能自閉症あるいはアスペルガー症候群なのだろうか。
学習障害ゆえに、勉強に取り組んでいない様子が描かれているため、知的障害の有無は分からない。
食べ物に対するこだわりの強さ、家庭環境の複雑さ。
あみ子に「悪気はない」。
だけど、悪気なく、他人に対して悪意的な言動を取れるのなら、その人はただの「厭な奴」だよね。
同じような障害を持っていても、どうにか社会と折り合いをつけて生きることができる人と、そんなことはできない人がいて、彼女は後者なんだろう。
のり君の立場から読み進めれば、本作品は明確にサイコホラーである。
「殺す」と言っても「好き」と言い続ける少女。
話の通じない相手、何かされても罪に問えるかあやしい相手。それなのに、露骨にさければ自分が悪者にされかねない状況が、純粋に怖い。
母、兄、父、のり君…、そして彼女が興味を持たなかった多数。
彼女は、一体幾人の人生に傷を残したのだろうか。
表題作の一作だけをとってもさまざまな読み方ができる本書。
後味はまったく良くないが、印象に残る作品であるのは間違いない。