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【読書253】赤ちゃんの科学ーヒトはどのように生まれてくるのか

赤ちゃんの科学」(マーク・スローン/NHK出版/ひたちなか市立図書館書蔵)

 

自分の妊娠出産をきっかけに、赤ちゃんに関する本を読むようになった。

読もうと思えば科学、医学、保育、教育はてはスピリチュアルまで、対象も母体、胎児、新生児、赤ちゃんと様々な立場から書かれた本が溢れている。

読んで終わり、でなく、その気になれば実際に観察・検証できる対象がすぐそばにいるのはいい。やはりフィードバックは大切であると感じる。

 

さて、本書は小児科医の立場で書かれた赤ちゃんの「誕生」の本である。

産科での実習や小児科医としての、そして出産を迎えた妊婦の配偶者としての実体験、症例や研究の紹介、歴史的経緯まで、実に様々な視点から、「出産」という一大イベントについて書かれている。

 

まずは出産姿勢のお話から見ていこう。

ルイ14世には覗き趣味があり特に出産の観察を好んだらしい。ルイ14世のお気に入りの出産姿勢が仰臥位(完全な仰向け)であったため、仰臥位がフランスのスタンダードになり、フランスは当時産科技術先進国であったため、仰臥位が欧州スタンダードとなっていったようである。

王様にお気に入りの出産姿勢があることをみんな知ってる状況…、ちょっと想像がつかない。公認覗き、それは覗かずにもう堂々と観察したらいいけないのだろうか?

しかし、この仰臥位に2、3の改良を加えた破石位が現在のスタンダードな出産姿勢なのだから、ルイ14世の功績は絶大である。

 

では、胎児はどのようにして生まれてくる瞬間を決めている(あるいは把握している)のか?

血流の微妙な変化から誕生のタイミングを計っているのかもしれない。臨月の胎盤には新生児の血液量の半分にあたる約170gの血液が保存されているが、これは胎児期は肺や肝臓、腎臓が機能しておらず血液を必要としないためであり、出産の際にこの血液が胎児体内へ移行するという。

 

読んでいて胎児について、あるいは、新生児のについて、書かれた書籍は山ほどあっても、「胎児が新生児に移行する」ということについて書かれているのを目にしたことがないなぁ、と思った。

では生まれた瞬間の胎児体内でなにが起こっているのだろうか?

 

胎児期、肺には羊水が入っている。産声を上げることで、肺胞がひとつひとつ開く。空気中の酸素は母の血液中の酸素よりも多いため新生児の血中酸素量が急上昇し、肺動脈や毛細血管がゆるむ。こうして肺への血流量が増えて肺呼吸が確立するという。

胎児期から新生児期への移行は、その情報の少なさからは信じられないほど劇的であり、ゆえに移行が上手くいかないと障害が生じてしまうことすらあるらしい。

その障害が「新生児持続性肺高血圧症(胎児循環持続症)」、胎児が誕生時に肺動脈や毛細血管の拡張ができずに生まれてくると、肺に血液が運ばれず、低酸素状態が続いて肺の血管が収縮したままになるという。

誕生の瞬間の劇的変化、その象徴が「産声」であるのはなんとも面白い。

 

妊娠は男性側も変化させるという。

妻の妊娠に伴い、男性の側でも男性ホルモンであるテストステロン低下と、エストラジオール(卵胞ホルモン)、プロラクチン(母乳分泌に関わるホルモン)といった女性ホルモンの上昇が見られるという研究結果が紹介されている。このホルモン変動の犯人と目されているのが女性から出されるフェロモンだとか。

実は、この部分を読む直前、里帰り出産について考えていたところだった。

里帰り出産では、妊娠の後期および出産直後の時期を妻側(場合によっては夫側)の実家で過ごすことになる。

出産直後の母子が最も庇護を必要とする期間を、新しく家族となった夫とではなく、すでに独立したはずの別家庭で過ごすこと、即ち、父子が別々に過ごすことは、その後の父子関係の形成に影響はないのだろうか?

本書の内容が事実であれば、「里帰りをしない」ことによって男性側は妊婦からのフェロモンの影響を受け続けることになり、父性を育てる可能性があると言えるかもしれない。

 

対象を胎児の側に戻そう。

胎児において聴覚が発達しているのはすでに一般的な話であるが、嗅覚の発達もなかなかのものであるという。未熟児の観察から、妊娠後期の胎児においては嗅神経がしっかりと機能しているらしい。

 

では、羊水内に肝心の匂いはあるのだろうか?

 

答えは「あるらしい」。

羊水には母体が摂取したものの匂いがついており、胎児は羊水を通してその匂いを感知している可能性があるという。

この記憶が誕生後の乳幼児の嗅覚的な嗜好、食文化に影響している可能性すらある、という考察は大変興味深かった。

誕生直後の新生児が母親のおっぱいを探す時に頼りにするのもまた嗅覚、という。誕生直後に使用する機能については、胎児期から訓練が必要ということなのかもしれない。

 

この他にも、出産経験のある女性が分娩に付き添うことでお産の質が向上する話や原始反射の話、アプガー・スコアや帝王切開の話など、出産を経験するに当たっては必ず見聞きするであろうことが様々取り上げられている。

日本ではまだそれほど市民権を得ていない無痛分娩に関しては、アメリカという国のお国柄を垣間垣間見ることができた。

妊娠後期から出産直後という非常に限られた期間を取り扱っているにも関わらず、読み応えのある良い一冊であった。

 

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