心ゆくまで崖っぷちで読む本

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【読書266】空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」(角幡唯介/集英社/ひたちなか市立図書館所蔵)

 

プロローグを読み終えた時、なんだかドキドキした。

極上の冒険小説の、あるいは、歴史上の大冒険家の手記の、序章読み終えた気分、とでも言おうか。

これから始まるであろう冒険に、胸を躍らせ、期待を膨らませるに十分なプロローグである。

 

角幡さんの本を読むのは二冊目である。とはいっても、一冊目として読んだ「アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極」よりも、本書の方が出版は古い。

アグルーカのプロローグも、独特の静謐感があり、印象的だった。本編は史実や過去の出来事と、現在直面する探検が入り混じって記述される。これはアグルーカにも共通の、角幡さんの作風なのだと思う。ただ、本書のそれは耳慣れない響きの地名や固有名詞が多いこともあって、少し読みにくい。

 

チベットの奥地、ツアンポー渓谷に「ファイブ・マイルズ・ギャップ(空白の五マイル)」と呼ばれる場所がある。現代まで残った地理的空白。大滝の存在が囁かれる、伝説的な未探検地である。

本書は筆者の2002-2003年と、2009年、二度に渡るツアンポー渓谷の単独探検の記録である。

 

現実の冒険譚にはファンタジーやフィクションとはまた違った魅力がある。

現代を生きる故の悩みや苦しみ。過酷な環境下で現代人がげ解脱してゆく様子、とでも言おうか。

ピンチはあっても、生命の危機に晒されることは少なく、一方で生命の危機がつきまとう話は、劇的としか表現しようのない。

残念ながら本書は探検をする本人の、若さ…、見積もりの甘さや経験不足、準備不足を感じた。

特に2009年の冒険では中国当局の規制の激化と携帯電話の普及から、現地での協力者を得られず、探検は難航。食糧不足から瀕死の状態に陥っている。

 

冒険、危険を冒すことを生業とする以上、不慮の事故は避けられないとしても、回避可能なアクシデントには引き返す勇気をもっている人であって欲しいと思う。

無謀さ、それ故に生命の危機に陥る探検は、今回は運良く生還しているとしても、なんとなく楽しめない。

いや、生還したからこそ眉を顰めるのだ。死亡してしまえば、それはもう伝説やお話になる。

彼はまた探検へと出かけるだろう。だけど、その時も生きて帰ってきて欲しい。そんな思いが、垣間見られる無謀さを、受け入れがたい気持ちにさせる。

そういった慎重さを、現代を生きる探検家にだけ求めるのは、外野の我儘だろうか。

 

 

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