心ゆくまで崖っぷちで読む本

中小企業診断士(登録予定)の読書ブログ

【読書330】雪男は向こうからやってきた

「会社を辞めて何をするんだ」
「とりあえず、またチベットにでも行こうかなと思っていますが…」
「そうか」と近藤は言った。
「まぁ、それはいいけど、お前イエティを探しに行ってくれないか」

雪男って本当にいるんですか。そもそも雪男ってなんですか。探検家を志して勤めていた新聞社を辞めた直後、まさに神がかり的なタイミングで受けた謎の誘い。

興味をそそられはしても、冷笑的な反応をするだろう。非現実的、ありえない誘いに乗って、向かった先はヒマラヤ山脈だった。

 

ヒマラヤ山脈…、地球上でもっとも標高の高い場所。

そのイメージから真っ白な雪山ばかりを思い浮かべるし、雪男という言葉もそのイメージ作りを後押しする。

しかし本書にかたられるヒマラヤ像は実に鬱蒼としていて、青々しい。

少なくとも、ヒルに悩まされるジャングル、というのは、まったくヒマラヤのイメージではない。実はヒマラヤ山脈の麓は熱帯に属しており、複雑でバラエティーに富んでいるという。

雪男捜索隊を追ったドキュメンタリーであり、筆者の他の著作とは一線を画する。

雪男にも興味はあるが、おそらくわたしはその正体よりも、雪男を見た時の人間の反応に興味があったのだ。
雪男は本当にいるのだと確信できる何かを見た時、自分はどのような衝撃を受け、自分の中でどのような化学変化が起きるのか。
雪男の実在を強く信じていると言えない自分の中でも、パラダイムはあっけなく転換してしまうのだろうか。
雪男は人の意向とは無関係に人生を不可逆的な地点にまでもっていってしまう、ある種の暴力的な現象のような気がしていた。

雪男を探しながら、雪男が見たいわけではない。

雪男がいるとは思っていない。半信半疑どころか9割疑っている。

文章から感じるのは雪男とイエティは別物である、ということだ。イエティはヒマラヤに住むといわれている未確認動物、UMAである。大きな足跡、白く長い体毛に覆われた体で、立ち姿は類人猿を彷彿とさせる。現実的に存在するかもしれない未発見の類人猿や哺乳類を指す。

一方でイメージする雪男は雪女の同類、雪の中にしか現れない妖怪の一種である。

 

そして、筆者は、イエティを探しに来て、一人だけ雪男を探している。

 

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