【読書156】【読書157】にぎやかな天地(上)(下)
「にぎやかな天地〈上〉」「にぎやかな天地〈下〉
」(宮本輝/中公文庫)
その昔、糠漬けとともに実家から送られてきた作品。旧題「賑やかな天地」。
しかも、本作は上・下二巻の作品なのに、なぜか上巻のみを送ってくるといういじめプレイだった。
とりあえず、と思い上巻を読んで、その後、お願いして下巻も送ってもらったのだけど、そのころには上巻を読んだ熱もすっかり冷めて、ずっと放置していた。
今回あらためて、上巻から再読した。
誰の人生にでも転換期となるタイミングがある。この作品はまさに主人公・船木聖司の人生の転換期を描いた作品なのだと思う。
主人公は京都在住の製本職人、船木聖司。
謎の老人、松葉伊志郎に「発酵食品の豪華限定本を作ってほしい」と依頼されたことから物語は始まる。
糠漬、熟鮓(なれずし)、醤油に鰹節…。日本にはさまざまな種類の発酵食品がある。
料理研究家の丸山澄男の協力で日本各地の職人を訪ねるうちに、微生物の精妙な営みに心惹かれていく。
同時に、自身も亡くなった祖母が糠漬けを漬けていた桶を使って、糠床作りを始める。
京都にある自宅、甲陽園の実家、そして各地の発酵食品製造現場。
移動と取材を繰り返し、実際に製造の現場、その味に触れながら、聖司は一歩一歩前進していく。
上巻はなかなか含蓄に満ちた台詞が多い。
そして下巻。
発酵食品、それを製造する職人気質な作り手たち。
職人に触れ、職人の仕事にふれ、さらには彼らの製造物に触れ、聖司が職人として生きる意思を固める。
同じような、豪華限定本を作り続けてきた仕事の中でも、彼が決意するためには、クラブのママの伝記ではいけなかったし、料理教室で年一回催されるコンクールの作品集ではいけなかった。
姉が結婚し、母が退職するという家族としても転換期を迎えたその絶妙のタイミングで、「日本の発酵食品」という伝統と人と食に触れる仕事が、彼を決意へと導く。
上巻で収集した情報・経験が、下巻で行動となって花開く感じだ。
主人公は図らずとも父の命を奪った男の仕送りを知り、死を知り、墓参りをするが、依頼主である松葉伊志郎、料理人である丸山澄男、その弟と取材という通して関わりあっていく人々に垣間見える他の家族の事情は、まさに、人に歴史あり。
発酵学の本が読みたくなった。
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6月に入って46冊ということは、1年間100冊という目標がやや危ない?
ちょっと頑張って読むか、100冊という目標を早々に諦めるか迷います。