心ゆくまで崖っぷちで読む本

中小企業診断士(登録予定)の読書ブログ

【読書265】H5N1―強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ

 

鳥インフルエンザH5N1型。主に呼吸器系に疾患をもたらす弱毒性のインフルエンザとは異なり、H5型のインフルエンザウィルスは強毒性を示すことで知られる。

 

鳥からヒトへの感染力は弱いと見られていたH5N1型インフルエンザウィルスであるが、鳥からヒトへの感染を繰り返すうちに、ヒトからヒトへの感染力を得て、世界的な流行、そしてパンデミックへ繋がっていく様子を描いた、シミュレーション小説、ドキュメンタリー調のフィクションである。

発生地は東南アジアの某国。

文化的風土とあいまって、封じ込めに失敗した新型インフルエンザは、我が日本にもあっという間に到達し、やがて国内を大パンデミックへと導いていく。

 

インフルエンザ恐怖に怯える一市民よりも、対策を打とうとする総合病院、保健所、検疫官らの描写にページを割いているのが面白い。

国立感染症研究所の研究員という筆者の経歴故だろう。

本書の中で医療従事者は、スペインかぜの時のように第一の感染者群となり、対策が間に合った(効果あった)か否かにかかわらず、疲弊し、感染していく。

 

本書は、小説ではあるが、一種の啓蒙活動の書なのだと思う。

本書に書かれているのは、感染力が強く、症状が劇的で、かつ対策がほとんど間に合わない、という最悪の想定を重ねたものであろう。

新型インフルエンザの出現は"if"ではなく"when"の問題である。(19ページ)

これはおそらく筆者、そして多くの研究者、医療従事者が抱いている危機感を如実に表している言葉であろう。

啓蒙活動、という観点からみると、感染拡大、罹患時の症状が劇的すぎて、SFのようになってしまったのが残念であった。