【読書322】沈黙博物館
依頼を受けてある村の駅に降り立った博物館技師の若者。彼が依頼主である老婆から要求されたのは「村で出た死者の遺物をを蒐集し、展示する博物館」の構築だった。
陰鬱として癖のある老婆、対照的に若くはつらつとした少女。庭師と家政婦の夫婦。
博物館という目的に向かって濃密な時を過ごすうちに、はじめは無秩序に見えた老婆の蒐集物が愛おしく変貌していく。
だが、その一方で、書いても書いても手紙に返事は訪れず、彼が村を出ようとするたびに事故や病といった変事が彼を襲う。
そして始まる連続殺人事件。刑事たちの疑いの目は彼に向けられ、遺品の蒐集がままならなくなる。
老婆の体力が衰え終焉が近づくにつれ、「沈黙博物館」と名付けられた博物館の開館が迫るにつれて、全体に漂う仄暗さが増していく。
彼が死に迎え入れられるまでの物語なのかもしれないし、そもそも彼は妄想の世界の住人で兄や博物館など存在しないのかもしれない。
犯人は本当に庭師の男なのかもしれないし、本当は彼自身なのかもしれない。
少女と老婆は一体でループする物語、なんていうのも面白い。
想像の楽しみを残すダークファンタジーだ。