【読書373】煙突の上にハイヒール
Kindle未読減らす!と言いつつ、Kindleの50%ポイント還元に釣られて新しい本を買ってしまった。読めばいいんだよ、読めば。 「時砂の王」がなかなかよかった小川一水さんの短編集。
良いタイトルだな、と思う。 水面に妖精が降り立つように、尖頭に天使やら悪魔やらが降り立つように、煙突にハイヒール。きっと片足で、爪先から降りるんだ。 少し未来の世界、今の技術の延長線上にありそうななめらかにコミュニケーションができるロボットや一人用の飛行装置。 近未来での一般小説とでも言おうか。
コロナの感染者も再び増加してきた今読むべきは、最後に収録されている「白鳥熱の後に」かな。 「新型インフルエンザH5N1」をベースに、パンデミック後の世界を描いている。 insolble.hatenablog.jp
西暦二〇一〇年の初夏に、パリで感染した観光客が国内にウイルスを持ち込み、日本でも白鳥熱の流行が始まった。四年の流行の後、臨時扶養者特別措置法が定められた。
今のところ、お話の中よりは現実の方が少し優しい。 ダイヤモンド号があったとはいえ、日本第一号の感染者の実名が(少なくとも大々的には)報道されることもなかったし、医療従事者を労う声も多い。何より感染者が吐血したりしない(本書の設定では白鳥熱の患者は吐血して死ぬ)。 一方で、季節性があるという設定の白鳥熱と異なり、コロナはあまり季節性はなさそうに見える。
食材宅配サービスの顧客はパンデミックの間に急増した。その伸びは半年ほど前に頭打ちになったが、今でもまだ多くの人々が、自分で買い物に出るより、金を払って届けさせることを選んでいた。 そういった客は例外なく、マスクをつけるようドライバーに要求した。
日常品を宅配することが一般化し、ノーマスクが静かに非難される。 物語が白鳥熱後の世界を描いたように、現実にも、いつかはコロナ後の世界が待っている。それはコロナ前とは違うけど…。
西暦二〇一五年の人々は、あらゆる意味でパンデミックの後の世界に住んでいた。
現実も、早くコロナ後の世界になればいいのに。
表題作である「煙突の上にハイヒール」は一つ目に収録。先に述べたようにタイトルは素敵だし、内容とちゃんとマッチしてるんだけど、主人公がなー、嫌なやつなんだよ。危うく読むのをやめるところだった。
相手の男が他にも大勢の女をだましていた遊び人、どころか歴とした結婚詐欺師だったんだから、なおさらだ。服も時計も車も売ってそろえたお金は、すんでのところで助かったけれど、心と体面には深手を負った。誰かが癒してくれるまで、私はがんばって自分を救うことにした。
これ、なんとなくすごく最近の表現だと思う。
彼、寒河江義人と私は、一年二ヵ月後に結婚した。 私は、自転車が、思っていたよりもずっと奥が深くてリスクのある趣味だと知った上で決めた。 彼は、Mewの存在も知らないまま決めた。
逆の立場だったら烈火の如く怒り出しそうなキャラクターである。
一つ一つに起承転結があり、余韻は残しつつきちんと終わるので、中高生でも読みやすそう。
なお、未読本はこんな感じ。
未読本の減り数と既読本の増加数があわない(買ってる😂)