心ゆくまで崖っぷちで読む本

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【読書387】パノラマ島綺譚

パノラマ島綺譚

パノラマ島綺譚

好きな作家さんが紹介していたか、好きな小説で紹介されていて手に取ったんだけど、もはやそれが何かは不明。たぶん大槻ケンヂさん。 少しだけ読んでなんとなく気が乗らなくて放置していた。

ある富豪の死をきっかけに、売れない文筆家が富豪との入れ替わりを企て、入れ替わり、夢の島を築く。 昔、金田一少年にも死者(死者)と入れ替わる話あったな。

身体中の血が頭に集った感じで、もうそうなると、却って今考えている計画が、どれ程恐しいことだかも忘れて了って、殆ど一昼夜というもの、考えに考え、練りに練った挙句、結局彼はそれを決行することに極めたのでした。後になって思い出すと、当時の心持は、まるで夢遊病みたいなもので、さて実行に取りかかっても、妙に空虚な感じで、それ程の大事が、何だか暢気な物見遊山にでも出掛ける様な、併し心のどこかの隅には、今こうしているのは実は夢であって、夢のあちら側にもう一つの本当の世界が待っているのだという意識が、蟠っている様な、異様な気持が続いていたのでした。

異常な決断をしてしまう時の心理状態ってこんな感じ。 頭が冴えて冷徹に異常をこなせてしまう状態と、冷静に自分の行動に怖気付く状態を繰り返しながら進んでしまう。

人間の顔の中で最も目立つものは、最も各自の個性を発揮しているものは、その両眼に相違ありません。それが証拠には、掌で鼻から上を隠したのと、鼻から下を隠したのとでは、まるで効果が違うのです。

コロナのマスク騒動で、目を隠す欧州人と口を隠すアジア人の話があったけど、欧州だったらこの内容は逆になるのだろうか。 結局は眼病を装い、眼帯とサングラスにて目元を隠すこととする。

首尾よく入れ替わった後は富豪としての財産を処分し、夢と妄想の詰まったパノラマ島を築きあげる。 彼に疑いを持った妻の千代にパノラマ島を紹介してめぐる場面が見どころなのだろうか。 騙し絵のように視覚テクニックを駆使して実際の遠近感や高低感を狂わせ、様々なテーマの小世界が目まぐるしく現れては消える。随所に裸女が配置されたエログロな世界を進む二人は、まるで地獄めぐりでもしているようだ。

Wikiには、連載中はこの地獄めぐりシーンの評判が悪かったとあるが、分かる。 作品のシーンとして読んではじめて意味が見えてくるのであり、連載で一話が丸々このシーンだったら、ひどく短調だろう。

Kindle未読を減らすプロジェクトのおかげで、普段だったら途中で挫折する本もなんとか読み切っている。 強制的に好きじゃないものに触れるのも、これはこれで修行みたいで良い気がしてきた。