心ゆくまで崖っぷちで読む本

中小企業診断士(登録予定)の読書ブログ

【読書424】新訳 走れメロス

本作を楽しむには、私は山月記を愛しすぎている。

隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃む所すこぶる厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。

これほど、音読して美しい文章も無いと思う。 漢文訓読体、漢詩との比較。音の美しさに気付いたのは、高校の教科書で出会ったからだろう。

本作品は、そんな山月記をはじめとする古典の名作を、現代風にアレンジし、スターシステムを用いてまとめた短編集である。

山月記のほか、表題作の走れメロスや、百物語、藪の中などが取り上げてられている。

京都を舞台にした短編の連作でちょっとオカルトがかっている、至って森見登美彦さんらしい内容なので、思い入れがなく、森見さんの作風が好きならば、普通に楽しめる。

初っ端の山月記での苦い気持ちを飲み込み、それほど思い入れのない作品はまぁまぁ楽しんで読んだのに、後書きで作者に

ここに選んだ短編は、必ずしもその作家の最高作と言われるものとはかぎらず、さらに言えば、個人的に一番好きな短編を選んだというわけでもない。名の知られた古典的短編の中から、読んでいて何かを書きたくなった作品という基準で選んだので、たいへんワガママな選び方になった。

こんなことを言われたら悲しい。 読者のわがままであるけど、アレンジしたのであればせめて、好きな作品、思い入れのある作品だったと言って欲しい。 思い入れのない作品を、悪戯に弄くり回した、と言われているようで悲しい。

本作品でアレンジされた原作を愛している人は、やめておいた方がいい。

Kindleセールで森見さんの作品をもう一冊かってあるのだけど、読む気がなえてしまった。 それもまた悲しい。