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【読書232】家族喰い−尼崎連続変死事件の真相

家族喰い――尼崎連続変死事件の真相」(小野一光/太田出版)

 

一般人が被害者となった殺人事件で、これだけ全貌を掴むのが難しい事件も珍しい気がする。

2012年に発覚した通称尼崎連続変死事件。複数世帯の家族が長期間虐待、監禁され、複数名が殺害された連続殺人事件である。

被害者として複数の家族が含まれること、被害者の親族が加害者になっていること、養子縁組み等により加害者達が疑似家族のような状態にあったこと。非常に複雑な人間関係に加えて、2012年12月主犯とされる角田美代子容疑者が自殺したことから、全容解明が非常に困難となった事件である。

 

リアルタイムでニュースを見ていた際にどんどん増えていく(新たに発覚していく)犠牲者たち、と同時に追加されていく人間関係図の煩雑さに戦慄したことを覚えている。

そして様々な犯行が明るみになっていく中で、犯人への追及は「犯人の自殺」という最もあってはならない形で終止符を打たれた。希代の悪党ここに極まれり。そう思った。

 

本書は現地取材を通して角田美代子を始め加害者達の半生から、ターゲットとなった一家との関連性、逃げ延びた被害者の現在など多岐にわたって記載されている。

最後のページをめくる頃にはヒューマンホラー、小説を読んでいるような気持ちになった。

現実だと思うにはあまりに惨い。

 

事件の卑劣さとしてよく耳にしたのは、家族同士に不信感を埋め込み、お互いに暴力を振るわせる、というものだったように思う。しかし本当の卑劣さは、家族同士に不信感を、という一面よりも、子供を加害者兼人質として取り込む点にあるように思う。

報道を聞いていた頃、無関係の人間に対してだから、残酷になれるのかと思っていたが、関係のあった一族を対象としていたからこそああも残酷であれたのかもしれない。

 

「私が思うに、オカンが自殺したんは、事件がバレたことやなくて、自分が家族やと信じとった者に裏切られたという思いが強かったんやないでしょうか。それがショックで死を選んだんやと思います」

本書、特にこの一文を読んだ時の安心感を言い表すのは難しい。

鬼や悪魔のたぐいであった犯人が、極悪人であったことが判明した感じである。

同様の事件として語られることの多い北九州一家惨殺事件、そして最近のリサイクルショップオーナーの事件。

個人的な憎悪が下敷きにあったのだろうか。いっそそうであって欲しい。

 

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