【読書318】あやかし草子 みやこのおはなし
「あやかし草子 みやこのおはなし」(千早茜/徳間書店/ひたちなか市立図書館書蔵)
「おとぎのかけら」が西洋童話をモチーフにした現代劇だったのに対して、日本の妖、怪異をテーマにした時代劇が本作だろうか。
妖を奇怪とは感じても、驚異とは思わない。人里のすぐそばに存在する人ならざる者の世界。
相容れないはずのものなのに、その狭間に生きる者がいる。
古いなじみの狐に感化されて、人里で和尚として暮らすムジナ。
宮廷に飽いて、天狗のもとへ逃避する姫。
父から賜った笛を一心不乱に吹く男。
ハッピーエンドとは限らない。むしろバッドエンドと呼ぶほうがふさわしい結末も多い。
残された人の目には「怪異にたぶらかされた」被害者かもしれない。怪異の側からすれば「うまいくいった」と意地悪く笑うかもしれない。場合によっては人も怪も憐れみを誘われるかもしれない。
ただ、他人が思うほど本人は不幸ではないのではないかと思う。
登場人物視点での幸せと、読者の思うごく一般的な幸せが乖離していて、そこに筆者の底意地の悪さを感じる。
狢も、姫も、笛の男も、みんな自ら運命を選ぶからだろうか。
そこはかとなく漂う「もののあはれ」感が絶妙な短編集だった。