心ゆくまで崖っぷちで読む本

中小企業診断士(登録予定)の読書ブログ

【読書318】【読書319】天皇の料理番(上)(下)

天皇の料理番 上 (集英社文庫) 

天皇の料理番 下 (集英社文庫)

天皇の料理番・上」「天皇の料理番・下」(杉森久英/集英社文庫)

宮内省大膳職司厨長(料理長)秋山徳蔵。大正期から昭和期に生きた料理人であり、日本における西洋料理、特にフランス料理の第一人者である。
本作の主人公は「秋沢篤蔵」は秋山徳蔵の経歴をベースにした半フィクションの存在である。

裕福な家の次男坊として生まれ、負けん気が強くて、才能もある。
養子先で出入りしていた鯖江の連隊で初めて目にしたカツレツに惚れ込み、西洋料理の道を志す。
17歳で単身福井から上京。兄の口添えもあってまずは華族会館の皿洗いとして、働き出す。

「貧すれば鈍す」とはよく言ったものだ。
国内で修行中の身であっても、実家からの仕送りがある彼は、貧する必要がない。
うまく先輩や上長に取り入りながら、修行に明け暮れるが、やがては仕事をさぼって、別の店へ出入りするようになる。

フランス語の学習もまた、実兄の協力や実家からの仕送りがあってのことである。
気の強さや才気あふれるが故のエピソードが武勇伝のように書かれてはいるが、国内での修業をものにする前に渡仏している。
海外が遠く、料理人の海外修行などまったく一般的ではない時代、彼がそれを可能としたのは彼自身の努力ではなく、実家の財力である。

明暗を分けたのが「実家の財力」だけとは思えないけれど、本書を読む限りはすべてそこに帰結してしまう。

帰国して皇居の料理長となったのちも、そして老齢となった後も、語られるエピソードからは「嫌なヤツ」感がぬぐえない。
外遊に同行し、異国の献立を研究するくだりは、すなおに感心できるのだが、人物評になると「当時の価値観」と「今どきの価値観」の違いを差し引いても、共感できるものではなかった。

筆者はこの人物が嫌いなのだろうか。
そういえば「白蓮れんれん (集英社文庫)」を読んだ時も、同じことを思った。