心ゆくまで崖っぷちで読む本

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【読書244】アグルーカの行方-129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極

アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極」(角幡唯介/集英社/ひたちなか市立図書館書蔵)

 

それからずいぶんと長い間、他の人間の姿を目にすることはなかった。(27ページ)

冒頭として、なんという静謐感であろうか。

 

北極だろうが南極だろうが極地に来たことはなかったし、行こうと思ったことすらなかった。少し大げさにいうと、極地とは私にとって、世界史の教科書に載るような英雄が苦難と⚫懊悩に満ちた神話レベルの冒険を繰り広げる、そういう場所だった。(18ページ)

正確な地図が存在し、様々な機器が発達した現代においても一歩間違えればすぐ隣に「死」が横たわる場所、極地。幾人もの探検者の生命を飲みこんできた、まさしく「神話レベル」の場所。

そんな北極を徒歩で旅しながら、同じこの極地でその足跡を絶った「フランクリン隊」の軌跡を追うドキュメントが本書である。

 

フランクリン隊、南極のスコット隊と並ぶ極地探検の二大悲劇である。

北極圏のキングウィリアム島付近で分厚い氷に囲まれて動けなくなった後、生き残りをかけて南方へと移動を開始したものの、129人の隊員は全滅したとされる。

 

極地である、という前提を取り除けば、基本的なフィールドワークがそこにある。

一日に5000kcalを摂取していても減っていく体重。タイムリミットへの焦りと激しい飢餓感。

極限環境だからこそ感じるささやかな春の訪れ。希望。

机上の空論ではなく、現地を歩いたからこその実感。

見て、記録して、考察する。

 

北極圏走破というドキュメントに、フランクリン隊についての歴史解説、考察が加わって、読む側を飽きさせない。

 

南極基地においては持ち込む食糧を一人一日あたり4000kcalで計算するというから一日に5000kcalというのは順当なところなんだろうか。なんとなく少ない気もする。

 

雪原を歩く前半部分と、ツンドラを歩く後半はなかなかに好対照である。

前半はクリーム色のホッキョクグマや乱水帯、凍傷と極地感が万歳であるのに対して、後半はぬかるんだ雪、蚊、立ちはだかる激流、と探検らしい探検と言えるかもしれない。

 

やや長いが、「現在」に主点がおかれることの多い一般の探検小説とは異なる読後感で、とても興味深かった。

 

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