【読書307】レパントの海戦
地中海三部作と言われる一連の作品の最終作。
本作ではコンスタンティノープルの陥落から118年後、前二作では脇役であったヴェネチアを主軸に西欧キリスト世界VSオスマン・トルコの、最後の海戦が描かれる。
政治は血の流れない戦争であり、戦争は血の流れる政治であるという。
オスマン・トルコのヴェネチア領キプロス侵略に機を発し、キプロスの奪還を目的にスペイン、ヴェネチア、法王庁を主力とする十字軍が結成される。
それぞれの思惑があり、決して一枚岩ではない十字軍。
それゆえ、結成から運営、進行に至るすべてを、血の流れない戦争である政治に終始することとなる。
国土を持たぬ都市国家であり、他国との交易無くしては存続できない海運国ヴェネチア。その特殊性、置かれた立場の微妙さを考えれば、無理もないことではあるのだろう。
今日の敵は明日の客である。例え異教徒の国といえど、巨大な国は巨大な商売相手であるのだ。
後世から見れば本戦闘は最後の十字軍となり、無敵を誇ったオスマン・トルコに墨をつけた大きな意味のある戦いであった。
一方で、大航海時代の幕開けに伴い、地中海世界は世界の中心から辺境の地へと意味合いを変え、ヴェネチアやオスマン・トルコの栄華は過去のものとなっていく。
遅々として進まぬ政治の一方で、敵味方とも多くの死者を出した激しい戦争の描写のコントラストが印象的な作品であった。