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【読書440】恐るべき子供たち (角川文庫)

恐るべき子供たち (角川文庫)

恐るべき子供たち (角川文庫)

フランスの詩人コクトーの小説。 邦訳は何本か出ているようで、読んだのは角川文庫から出ている東郷青児さん訳のもの。訳としては古いのかもしれないが、原作の出版年が1929年に対し翻訳が1930年、渡欧経験がありフランスの画会との交流を経験しているとのことで、当時の空気感をよく知る人物による翻訳といえるのだろう。

バスタイム読書で読み始めたけれど、結局その日のうちに読み切った。

病弱な美少年ポール、その姉エリザベート、ポールの同窓生でポールに懸想するジェラールの三人の孤児。 後に働き始めたエリザベートの先輩であり三人の中に溶け込むように合流した少女アガート。

どの人物を軸と捉えるかで受け止め方が変わりそうな、読むごとに違った印象になりそうな余地のある小説であった。

ポールとエリザベートを中心とした世界で、添え物的に振り回されるジェラールとアガートという印象が強い。 ポールとエリザベートの世界は破滅的、退廃的なものしかなく、それが全てであるが、おそらくジェラールはそうではないし、アガートもまた然りである。

姉弟への影響の大きさでは、ただ2場面、最初と最初にしか出演せず、ポールとは直接会話することすらないダルジェロに軍配が上がる。

エリザベートはその容姿でアメリカ人富豪のミカエルに求婚され結婚する。 そもそも姉弟が医者や誰かから支援を受けて生き延びたのも、おそらくはその美しい容姿故なのだろう。美貌と保護が1:1で結びつく感じが即物的でたまらない。

ミカエルは死に、エリザベートは莫大な遺産を相続し、姉弟の分離の機会は瞬く間に失われる。 例えばミカエルが死なぬ世界線では、二人にはどんな結末があっただろうか。

アガートがメンバーに加わらなければ、エリザベートが働きにでなければ、ダルジェロの雪玉がポールの胸に当たらなければ、ジェラールがポールに懸想しなければ。 ターニングポイントとなる場面で様々なifを重ねて想像すると、もっと酷い結末、もっと早い段階での破滅にしか辿りつかない気がする。

描かれた破滅が、最善に思えてしまうのだから、よくできた小説だと思った。

コクトー繋がり。