心ゆくまで崖っぷちで読む本

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【読書142】蠅の王

蠅の王」(ウィリアム・ゴールディング/新潮文庫)

書評サイトで「二年間の休暇」の書評を書いた際に、裏「十五少年漂流記」としてお勧めいただいた一冊。

なんだろう、この暗い空気は。

いくつもある分岐を、ひたすらバッドエンドへ向かって突き進んでいる感じ。

漂着の初期、まだ少年たちが共同生活を送る場面ですら、その後訪れる不幸を感じさせる。

漂流記であるのだが、冒険小説ではない。

舞台として語られるのは、食料としては自生するフルーツや野生の豚が有る島であるであることくらいで、食べるフルーツがどんなものかとか、といった言った言及がない。

冒険小説として読むと、舞台の書き込みが甘く感じる。情景が浮かんでこないのだ。

その代わりに、描かれているのは、主人公ラーフと対立する狩猟隊のリーダージャック、ピギーやサイモンら一部の比較的大きい少年たちの暮らし、葛藤、対立だ。

故に、本作は冒険小説ではない、と私は思うのだ。

ホラー、スプラッタ、サスペンス、そう言った類のものだ。

日数のカウントがなく時間の概念が薄いため、ボロボロになってゆく服や、体にたまってゆく垢の記述からかなりの時間がたったことを察するしかない。

舞台背景があまり書き込まれていないことが、少年たちがそれらに頓着していない証拠となって、全体の暗い雰囲気に拍車をかける。

小さい少年の存在や島の植生も、日数のカウントの件もそうだ。

狩猟のためのペインティング、仮面を得て失われる文明性。代わりに野蛮性を得て対立を深め、やがては野蛮性に飲み込まれていく。

そして狂乱、パニック。

起こるべきして事件は起きる。

本作はラーフの側から書かれているがジャックの側から考察するとまた違った面白さがありそうだ。

名作ではなく奇作や怪作と言われる類の作品だと思う。